特別な夏

暑い。

散歩中に公園のベンチに座った。

公園には子供連れの親子が仲睦まじく遊んでいた。いつもの夏を変わらない光景だ。子供がマスクをつけていること以外は。

涼んでいると、ふと、大学の頃の夏を思い出した。

夏のゼミ。

同じゼミの須藤くんという人が某宗教に入信してて、僕を熱心に誘ってきた。

僕はあまりにもしつこいから「ごめん、違う宗教に入ってるんだ。ごめんね」と言った。実はなんの宗教にも入ってないけどそういうふうに言うのが最適解だと思ったのだ。

すると須藤くんは「うちの宗教は素晴らしいから改宗しなよ」という趣旨のことを言ってきた。

僕は宗教に優劣なんてないし、信仰心に優劣もつけられないと思っていたので、面食らった(そもそも法学部の学生が信教の自由の意味をわかってないことにも衝撃を受けた)。

 

だから僕は自分の宗教がいかにイカれてるかをでっち上げることにした。

「僕の入ってる宗教は✗✗教(その場ででっち上げたので忘れた)と言って○○神様の像を毎日崇めて、月末には降霊の儀式があって、そのときに豚と鳥とを生きたまま殺してその血をみんなで浴びるんだ。だから宗徒が集まる祭場にはいたるところに排水口があって、傾斜がついてて部屋のどこで豚や鳥を殺しても血がうまく流れてくれるんだよね。あと30歳になると体のどこかを切り落とさなきゃならなくて、そのときの切り落とす部位も儀式で決まって、その部位によって法主になる素質が図られるんだ。完全であるということを自ら捨てることにより初めて神に近づけるという思想から来るものらしい。ちなみにこの宗教を抜け出すことは決して許されないんだよね」と言った。

 

すると流石に須藤くんはビビったようで「あー、そうなんだ...それは...無理そうだね」と言って引き下がってくれた。それから卒業まで二度と宗教の話をされることはなかった。

 

そんなことを思い出していたら、家族連れは公園からいなくなっていた。

昼も過ぎたというのに、まだ気温は高いままだ。

 

誰も経験したことのない特別な夏はまだ続く。