続・秋霜烈日のバッジは何を語るか

秋霜烈日

秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)とは、日本の検察官が付ける検察官記章(バッジ)のデザインに対する呼称。

 秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのような気候の厳しさの意味から刑罰・権威などが極めてきびしく、また厳かであるこのたとえが、検事の職務とその理想像をよく表しており、刑罰の厳しさのたとえとしても使われる。

○月×日

 今日は刑事実務演習第二回目の講義だ。

 時間になり、検事が講義室に入室する。そして、開口一番

「えー、前回の講義の最後に配布した質問用紙にこんなことが書かれていました」

「ヤクザがなんの罪もない人たちを地獄に陥れるのを見てきたと言っていましたが具体的なエピソードがあるのですか?」

 検事は公判廷で起訴状を読み上げる時のように朗々と質問シートを読み上げる。

 

 私が書いたのだ。まさか取り上げられとは思わず少し身構えてしまった。

 

「そうですね。確かに具体的なエピソードがあったほうがみなさんもイメージしやすいでしょうから講義を始める前に私が担当した事件の中でヤクザに関わるものをあげておきましょうか」

 

「あるヤクザを覚せい剤で逮捕して取調べしたんですね。それでこれは実務でよくあることなのですが、ある犯罪について取り調べしてるときに(覚せい剤事件のこと)、その被疑者が別の犯罪についても自白することがあるのです(実は覚醒剤以外にも別件で強盗をやっていた等の自白)」

※他になにか余罪はないのかと尋ねることが多いようである。現実としてヤクザがいろんな犯罪に関わっているからである。

 

検事は一呼吸入れて

「その覚醒剤で捕まえたヤクザが『実は人を殺して山に埋めた』と自白したんですよ」

「これが本当なら殺し(殺人事件の俗称)ですからそのヤクザの言うとおりの場所を掘り返したんですよ。そしたら…」

 

一同が息をのむ。

 

「人が出てきました。いや、正確に言うと人の形をした何かが」

検事は続ける。

「まず体中に"穴”が空いてました。ナイフや包丁のような鋭利な刃物による刺傷ではありませんよ。文字通りぽっかりとした"穴”です。」

 私は、講義室の温度が確実に下がるのを感じた。

「両目もえぐられており、耳も削ぎ落とされていました。しかし体中が穴だらけにかかわらず体は原型をとどめており、犯人が計算をして穴を開けていることがわかりました」

「私は仕事上、いろいろな遺体を見ていますが、これは衝撃的と言っていいでしょう」

「ちなみに被害者の方はヤクザではありません。一般市民の方で簡単に言えば見せしめで殺されたそうです」

 

「彼らはこういうことを平気でやります、他にも似たような事件は枚挙にいとまがないです」

 シーンと静まり返る講義室。その空気を察したのか検事は

「まあ、少し話しすぎてしまいましたか。みなさんが将来検事になった時にはこのような事件を担当することもあるかもしれません。今のうちに頭の隅に置いてもらえればと思います。」

 と、少し明るい声色で話した。

 

 私はようやく検事の言ってることの意味を理解し始めた。

 

 これがシリアルキラーなら分かる。それ自体が目的だからだ。

 これが怨恨なら分かる。憎い人間をできるだけ苦しめて殺したいという気持ちがあるから。

 しかし、猟奇でも怨恨でもなく、ただ単に見せしめという理由で、丹念に体中に穴をあける殺害方法を用いるのは…それが理性的に行われているのだというなら壊れているというほかない。

 

 今回の被害者もヤクザと関わりのある人物の友人というだけで見せしめに殺害されている。被害者自身は友人がヤクザに関わっていることは知らされていなかったようだから本当の意味での一般市民と言える。 

 私がこのようにならない保証などどこにあろうか。

 そんなことを考えていた。